あなたは法科大学院に行きますか?

伊藤塾 塾長 伊藤 真
一、法科大学院か現行司法試験か
二、法科大学院の先にあるもの
三、司法試験で問うべきもの
四、社会の求める法曹像と法曹教育

一、~法科大学院か現行司法試験か~

 2004年4月の法科大学院開校が迫ってきました。適性試験も間もなく実施されます。まだ先のものと思われていた法科大学院も、現実的な選択肢の一つとなってきているのです。もっとも、全国でどれだけの法科大学院が、どこの大学に作られるのかは、現時点では明らかではありません。とはいえ、京都大学に法科大学院が設置されることは間違いないでしょう。現在、京都大学の法学部で学んでいる方、あるいは法学部以外に所属する方でも、京都大学の法科大学院を目指してみようかという方が多くいらっしゃるのではないでしょうか。
 ところで、現在法律家になる方法は法科大学院の他にもあります。現行の司法試験を受験し、これに合格することです。現行司法試験は周知の通り決して簡単な方法ではありません。しかも現行司法試験はいずれ廃止される予定です(2010年が最後の実施)。(※参考資料)いずれ廃止される現行司法試験に向かって、何か新たなアクションを起こすというのは、あまり合理的な選択とはいえないとも思えます。
 しかし、現実に、多くの受験生が現行司法試験にチャレンジしています。そして、あえてこの春から、現行司法試験の受験準備を始めた方もいらっしゃいます。もちろん、法科大学院と現行司法試験という選択を前に、いずれとも決めかねる方も大勢いらっしゃいます。

 このように、少なからぬ方が選択に迷うのは法科大学院というルートの先行きがいまだ流動的で、(不透明とまではいわないまでも)不確定という印象があるからでしょう。
 法科大学院設置の初年度は、設置認可との関係でやむを得ないとはいえ、一体どこに法科大学院ができるか年末にならないとわかりません(※注1)。一番の関心事である入試科目や入試日程もはっきりしません。おまけに、学費についても、ずいぶんと高いということは言われていますが、具体的にいくらなのかもよくわかりません。
 そして、肝心のカリキュラム・教育内容はさらに曖昧です。カリキュラム案を示している大学も多いのですが、法学部ですでに行われている講義のカリキュラムとどう違うのだろうと首をひねりたくなるところも存在します。法科大学院でしか履修できない、法科大学院ならではの科目を明確化・具体化できないものでしょうか?
 さらに、最大の関心事となる「新しい司法試験」がどうなるのかも、やはりよくわかりません。試験の方式・科目については早々と決まったものの、具体的な内容は未知数としか言えません。
 こうなると、消えゆく運命にある現行司法試験に感じる不安とあまり変わらないくらいに、未来に道が開かれているはずの法科大学院というものにもリスクを感じてしまうのではないでしょうか。「考えれば考えるほど現行司法試験という選択も現実味を帯びてきます。いずれなくなるとはいえ、完全になくなってしまうまであと7回受験のチャンスがある」と考えると、法科大学院に行くべきか、それとも現行司法試験にチャレンジするかの決断はなかなか下せません。それぞれに決定的な要素に欠けているのです。
 ただ、はっきりしていることもあります。現行司法試験の合格率は決して高くはないですが、長年実施されていたこともあり、その対策法についてはほぼ完成の域に入っています。また、平成元年には約500名であった最終合格者は2004年度には1500名が予定されています。おそらく2005年度も1500名と予測されます。ですので、現行司法試験を目指す方は、一日でも早くスタートすることが不可欠です。
 京大生の皆さんなら正しい勉強方法さえとれれば、短期合格は十分に可能です。

注1: 6月末の各新聞社の報道によりますと全国で70大学強、6000人弱の定員の規模で文部科学省に法科大学院の設置申請がなされています。
    京都大学では、定員200名で3年(法学未修者)コース枠:60名程度、
2年(法学既修者)コース枠:140名程度に分けて募集することを予定しています。詳しくは、京都大学ホームページの法学研究科・法学部のページをご参照ください。

二、~法科大学院の先にあるもの~

伊藤真1

 ところで、法曹養成のプロセスとして法科大学院が論議されています。
 しかし、法曹養成は法科大学院に尽きるわけではありません。法科大学院入試に合格し、法科大学院の卒業を経て、さらに、新しい司法試験を受験・合格し、さらにその後、司法修習を受けて、やっと法律家となれるのです。 開校が迫っているということもあってか、現在の議論は法科大学院についてのものに集中していますが、法曹養成のプロセスとしては、当然に卒業後のことも考えておかなければなりません。ところが、法科大学院以降のプロセスをどうするかは、大きな枠組みが決定されたのみで、その内容の検討や吟味がなされているとはいいがたい状況です。さらにいえば、どうするべきかについての広い範囲からの発言や議論があったともいえません。
 新しい司法試験をどうするべきかの議論は、何より「現在の司法試験のどこに問題があるか」の検討が不可欠のはずです。現在の司法試験に問題がないなら制度を変更する必要はありません。現在の司法試験の問題点としては、極めて漠然と、最近の司法試験合格者のレベルの低下であるとか、その能力に対する否定的な評価が語られることがありますが、そのような漠然とした個人的な印象としてではなく、もっと実証的な調査や検証が必要です。ましてや、それを現行司法試験という制度のせいにするからには、それだけの相関性や因果関係まで明らかにすべきではないでしょうか。
 では現行の司法試験の何が問題なのか。多くの問題があるでしょうが、最大の問題は本来資格試験であるべきものが「競争試験」となってしまっていることです。司法試験が法曹として必要な知識や能力を試す試験であるなら、必要とされる一定のレベルに達していると判断されれば、それで合格を認めるというのが合理的なはずです。もちろんこの場合、年によって法曹資格を得る者の数は変化することにはなります。受験生全体のレベルが高い年度は合格者が増えるでしょうし、レベルが低ければ合格者は少なくなります。
 しかしながら、現実にはそのようにはなっていません。
 司法試験は、つい10年前まで合格者が400~500名という極めて少ない数に固定されていました。
社会・経済が疲弊していた戦後すぐはともかく、経済成長の最中も、日本経済が国際化していく過程でも、毎年同じ人数とされていたのです。もちろんそれは、受験生の数が何人になろうが同じです。受験生が増えようが増えまいが、あるいは受験生全体のレベルが上がろうが下がろうが、合格者の数についてはおかまいなしという状況が続いていました。つまり、合格を目指す受験生の多くが勉強すればするほど、全体のレベルが上がり、相対評価の中では合格に達することがより困難となってくるのです。
平成に入ってしばらくして、ようやく合格者を増やし始めましたが、結果的には弥縫策でしかなく、今回の司法制度改革の議論が生じる原因となっています。
私は、ここでは司法改革の議論に至るプロセスの是非を論じるつもりはありません。むしろ問題としたいのは、結局新しい司法試験になっても合格者が「2010年に3000人」というように、競争試験の形式が維持されると考えられることです。(※注2)
 確かに、3000人という数字は現在の1200名(2003年度予定)に比べれば合格しやすいように見えます。しかし、この数字が現実の受験生が何人になろうが、全体のレベルがどうなろうが同じであるとすると、実質的な競争はなお厳しいものとならざるをえません。法科大学院卒業生のレベルが高くなり、みんなが必死になって勉強すればするほど、新しい司法試験の競争も厳しいものとなってくるのです。
 これでは現在の司法試験と同じです。司法試験の競争試験化という「出口」の問題を解決しておかないと、たとえ法科大学院で充実した教育がなされたとしても、試験における競争の厳しさは今までと同じことになるのです。

 注2:司法制度改革審議会の意見では,「法曹人口の大幅な増加を図ることが喫緊の課題である」としており,これを受けた司法制度改革推進計画(平成14年3月19日閣議決定)では,司法制度改革審議会意見を踏まえ,平成14年に1,200人程度,平成16年に1,500人程度に増加させ,さらに法科大学院を含む新たな法曹養成制度の整備の状況等を見定めながら,平成22年ころには3,000人程度とすることを目指すとされています。司法試験管理委員会においても,この司法制度改革審議会意見を尊重することを決定しており,平成14年度の最終合格者の決定にあたっては,同意見の内容に沿った措置が講じられています。(法務省のホームページより)

三、~司法試験で問うべきもの~

 司法試験が持つもうひとつの問題はもちろん出題の内容です。  アメリカのロースクールの教授にこう言われたことがあります。「新しく日本でもロースクールを作ってよりよい法曹を育てたい?それは簡単だ。司法試験を変えればよい。学生はみんな試験に向けて勉強する。理想の法律家が身につけるべき事柄を問う試験にすればよい。」  確かにその通りです。では現在の司法試験はどうでしょうか。現行司法試験は択一試験においても論文試験においても出題内容や傾向を年ごとに変化させています。論文式試験では、かつての理論問題中心から事例問題が中心となってきています。司法試験が法曹としての資質を問う試験であるならこれは当然ですし、良い方向への変化だと評価できるでしょう。択一式試験は依然として知識の有無を問う出題が多いのですが、それでも単純な知識の有無から、事例の処理能力を問う形式が増えてきています。

伊藤真2 また、論文式、択一式に共通して、判例を素材とした出題が増えています。法理論を学ぶことももちろん重要ですが、法律「実務家」にとってはそれが現実の事件でどのように使われるかを学ぶことがより重要です。司法試験で判例が多く出されるようになれば当然ながら受験生も判例をしっかり学ぶことになります。新しい判例が試験で出題されるようになれば、受験生は普段から注目すべき判例が出ていないかに目を配るようになります。そして、法律実務家に必要な法を実際に使う能力を養成することになるのです。  このように、試験の出題内容は学生の勉強の内容を誘導します。試験の内容や方式を工夫すれば、学生あるいは受験生が何を学ぶかをコントロールすることができるのです。このことは現行司法試験でも、法科大学院でも同じです。法科大学院の理念や教育がどのようなものになったとしても、やはり学生の関心は試験に集まらざるをえないのです。  となれば、新しい法曹養成制度設計の中で、新旧いずれの司法試験について、その中身をどうするかはもっと広汎に議論がなされてもいいはずです。  現在の司法試験についていえば、事例処理や判例を中心に出題するようになったのは、具体的に考える力が問われるという意味では良いことでしょう。しかし、2時間で2通という物理的な制約は大きいです。また、事例が長文化・複雑化することで論じるべきテーマが多くなっています。事例を通じて様々なことを考え得たとしても、2時間で2通の枠内では、それを答案に出すことは難しいでしょう。事例を深く考えた人の答案よりも、むしろ個々のテーマや論点を少しずつ、かつ、当たり障りなく触れた答案のほうがかえって評価されているように思えます。

※ 司法試験について詳しく知りたい方は法務省のホームページhttp://www.moj.go.jp/
もしくは伊藤塾のホームページhttp://www.itojuku.co.jp/まで

四、社会の求める法曹像と法曹教育

四、~社会の求める法曹像と法曹教育~

 このように、新しい司法試験をどうすべきかの議論は、「新しい法曹養成をどうすべきか」の議論と切り離せないもののはずです。新しい法曹養成制度を通じて、日本の社会はいったいどのような法曹を求めているのかを確定しなければならないのです。
 求めるべき法曹像が確定したならば、そのような法曹が身につけておくべきものは何かを考え、それを新しい司法試験で問えばよいのです。もちろん、法科大学院での教育は、そのような理想的な法曹像と結びついたものでなくてはならないでしょう。
 もし法曹は法律の専門家なのだから、できるだけ多くの法理論や知識を持つべきと考えるなら、もっぱら法理論・知識の有無を司法試験で問えばいいわけです。そうでなく、法曹は具体的な事件の中で法的問題を処理できる能力を持つべきと考えるなら、事件の概略を知りうる資料を与えて、何が問題なのかを見きわめさせて解決するような問題を司法試験で出せばよいのです。いずれの場合も、受験生はそこで必要とされる能力を身につけるべく必死に勉強するでしょう。
 このように、「理想的な法曹像」とは、法科大学院での教育、法科大学院卒業後の新司法試験、さらに司法修習におけるいわば「獲得課題」といえます。それぞれのステージで、その獲得課題に向けて必要な訓練を受けられる ようにして、また役割分担をしていくべきです。現在の議論の中では、何が「獲得課題」なのかの議論が抜け落ちているか、あるいは十分に強調されていない状況です。
 おそらくはこれが未来に開けているはずの法科大学院制度に積極的な魅力や期待を感じきれない理由ではないでしょうか。今からでも間に合うでしょうから、理想的な法曹像とは何かの議論をはじめてもよいのではないかと、感じてなりません。

(※参考資料)  詳しくは下の伊藤塾ホームページへアクセスください →http://www.itojuku.co.jp/frame/shihou/lawschool/2003_guide_2/p03.html <Law School Guide ロースクールガイド VOL.2 これからの法曹養成~司法改革と法科大学~>

伊藤真3 伊藤 真 プロフィール

1981年東京大学法学部在学中に司法試験に合格。
以後司法試験受験指導を開始。
大学卒業後司法研修所入所。
司法研修修了と同時に弁護士登録。
司法試験、司法書士、公務員講座のほか、
企業法務研修など務める。
1995年、司法試験指導のキャリアを活かし
「伊藤真の司法試験塾」【現「伊藤塾」】を開塾。
弁護士業務を休業し指導に専念。
その後、公務員試験・司法書士試験の受験指導を開始。
代々木ゼミナールの公開文化講座講師のほか沖縄県・
神奈川県司法書士会研修の講師、大正大学の憲法の講師、
文京女子大学生涯学習センター講師、
龍谷大学客員教授を務める。著書は多数あり、
中でも「司法試験対策講座」シリーズ(弘文堂)は、
大学法学部のテキストにも使用され、司法試験・
公務員試験・司法書士試験などの法律の資格試験対策に広く浸透している。

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